スクールズ・アウト マスタークラス

中央がセバスチャン・マルニエ監督。

 
スクールズ・アウト』マスタークラス
横浜市立大学 金沢八景島キャンパス
開催日:2019年6月21日(金)10:30~

ゲスト:セバスチャン・マルニエ(監督)/キャロリーヌ・ボンマルシャン (プロデューサー)
MC:佐藤久理子
通訳:東慶子
協力:横浜市立大学

参加者の約半数が映画の鑑賞前ということもあり、まずは本編冒頭の上映を行い、本作を製作した経緯についてマルニエ監督から直接語られた。
『スクールズ・アウト』はフランスのベストセラー小説を映画化した作品。監督が原作を読んだのは、今から17年ほど前の2002年に遡る。監督は「原作の様々なジャンルが混在しているところに惹かれた」と言い、「学園ものだと思って読み進めるうちに、サスペンス調になり、ホラーの要素も出てくるところに、スティーブン・キングの小説のような面白さを感じた」と話す。

だが当時は映画製作の実績がなかったことから、ポケットマネーで原作の権利を入手したものの、全く目途が立たずに一旦は権利を返す羽目になり、その後、前作『欲しがる女』を製作する際にプロデューサーのキャロリーヌ・ボンマルシャン氏と出会ったことから、15年越しに本作の映画化が実現したという。

スクールズ・アウト マスタークラス

キャロリーヌ・ボンマルシャン (プロデューサー)

 
ボンマルシャン氏は、本作の提案を受けた際に、いわゆる「ジャンル映画」にちょうど興味を持っていた。「たとえジャンル映画であっても一つの要素に縛られることなく、映画を製作する際には常に“甘辛要素”を取り入れることを重視している」と語った。
ちなみに本作には生徒がゾンビのようにカメラに向かってゆっくり歩いてくるシーンがあるが、監督はゾンビ映画のほかに、日本の幽霊も参考にしたという。影響を受けた作品として、黒沢清監督の『回路』や『クリーピー 偽りの隣人』といったタイトルを挙げていた。

「例えば本作の冒頭のシーンでは真正面から人物を捉えるのではなく、黒沢映画のようにカメラを低い位置に設置して撮っている」と語り、「何が起きるかはわからないけれども、何かが起こりそうだという雰囲気が画面の中に漂っていて、それがノイズ音などでも表現されているところ」が、本作と黒沢清作品との共通点でもあると自ら分析した。

また生徒たちに翻弄される教師のピエール役にロラン・ラフィットを起用した経緯については、ポール・バーホーベン監督の『エル ELLE』でロランが見せた不安を掻き立てるような演技に興味を持ったことや、ロラン自身も「ジャンル映画」に関心を持っていたことなどを理由に挙げた。さらに「知名度のある俳優が出演することによって資金調達がしやすくなる」といった現実的な側面があることにも言及していた。

なお、撮影前に3か月ほど若手の俳優向けに「コレオグラフィー」と言われる身体の動きのトレーニングを中心としたワークショップを行ったという。
「彼らが演技ではなく自然に恐怖を覚えるのは、ホラー映画以上に、それが現実に起きている出来事であるから。その為に、映画の中に過去の自然災害や事件、事故の映像をアーカイブ的に取り入れた」と語った。

講義の後半、会場から「映画で一番表現したいことは何か」という質問が寄せられると監督は「ジャンル映画であっても、政治的な側面や、(自分が)社会をどう見ているかというビジョンを表現したい」と語り、「現実を直接的に真正面から見せるのではなく、ちょっと斜めから見せることがやりやすいのも、ジャンル映画の特徴」であると説明した。

さらに今後挑戦したいテーマとして「社会から阻害されたような人や、凶暴性のある人、今までうまくいっていたのに急に足元がふらついてしまったような人々が、なぜそういう行動を取るようになってしまったのか。その過程をじっくりと描きたい」と話し、その理由について「それは紛れもなく社会の産物であるから」と解説していた。

ちなみに次回作は「次の大統領選挙に出馬する人の奥さんが主人公。とてもシニカルな映画」になるといい、「イザベル・ユペールが出演する」とボンマルシャン氏が明かした。

そして最後に「日本とフランスには違いもたくさんあるけれど、お互いの国の映画をよく観合うことが、お互いの国のことを、よりよく理解できることに繋がる。映画は普遍的な言語ですから。ぜひ、これからもフランス映画を見続けてください」とボンマルシャン氏が熱く呼びかけ、会場の参加者と一緒に記念撮影を行い、マスタークラスは幕を閉じた。

⇒22日(土)『スクールズ・アウト』上映後Q&Aの模様はコチラ

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